2026年7月3日から8月20日まで、台湾南東部・台東県で2026台東博覧会(TAITUNG EXPO)が開催されました。
その博覧会の一端を担ったのが、『台東工芸展 ─ 深深慢(Deep Slowness)』。
ご縁をいただき、ありがたいことに、ニハマガジンは本展のガイドスタッフを担当させていただきました。
ガイドでは、作品そのものについて説明するだけではなく、展示がどのような意図で構成されているのか、作品が台東の土地や文化とどのようにつながっているのか。そうした背景にも触れながら、会場に展示された72点の作品を来場者の方々と一緒に見て周り、対話を交えながらご案内しました。
1回あたりのガイド時間は、平均すると約1時間。
会期を終えた今、振り返ってみると、そこでお話ししていたこと自体も、ひとつの記録として残しておきたいと思うようになりました。
そこで今回は、実際のガイドで話していた内容をなるべくそのままに、前半・後半の2回に分けてアーカイブしてみたいと思います。
台東まで足を運ぶことができなかった方には、少しでもこの展覧会を追体験してもらうために。そして、実際に会場を訪れた方には、展示を思い出しながら読んでもらえるような記録として。
後編では、5つのテーマのうち「深生態」「深進行」を取り上げます。
▼展示ガイドツアーの前編はこちら👇
https://ngiha-mag.com/wp_post_UiwNfcrK-1/2026taitungcraftexhibition-jp-01
※各作品紹介は、ニハマガジンのInstagramですでに投稿されているコンテンツを一部引用にしています。

台東工藝展 深深慢 Deep Slownessとは?
「台東工藝展」は、2026年夏に開催された2026台東博覧会(TAITUNG EXPO)の一環として開催された工芸展です。
博覧会全体のテーマは「SLOW FOR LIFE」。
台東県は数年前から「慢(Slow)」をキーワードにプロモーションを行っており、それにまつわるイベントなども定期的に開催しています。「慢活(Slow Living)」「慢経済(Slow Economy)」「慢食節(Slow Food Festival)」「慢活祭(Slow Living Festival)」などが挙げられます。
「深深慢」ももちろん台東県が推している「慢(Slow)」呼応していますが、単に「ゆっくり」という時間の流れを表す言葉で使ってるわけではありません。
台東という土地で、人と自然が長い時間をかけて関わり合い、その中で育まれてきた工芸。その背景にある文化や記憶、自然との関係まで含めて見つめ直すこと。それが、この展覧会における「深深慢」のひとつの意味だったように思います。
本日は72点のさまざまな作品を紹介いたしますが、私たちはこの機会に皆さまが改めて工芸文化がどう誕生したのか知ってもらえたらと思っています。
展示は「深文化」「深生態」「深地図」「深関係」「深進行」という5つのテーマで構成されています。
深生態

「深生態」では、植物と人との関わりから生まれる繊維工芸に焦点を当てています。
苧麻や月桃などの植物は、採ればすぐに素材になるわけではありません。植物が育つ季節を待ち、気候を観察し、浸す、叩く、撚るといった工程を重ねて、ようやく暮らしの道具や衣服へと姿を変えていきます。
そこには、自然のリズムに合わせて暮らしてきた人々の知恵が詰まっています。
ここでは、繊維そのものだけでなく、人と植物、そして土地との長い関係にも目を向けてみてください。
ブヌン族の編み袋|Bunun Net Bag

《 davaz|男性編み袋(薯榔染) 》
こちらは、ブヌン族の男性が使っていた編み袋です。底が狭く、上に向かって広がる形になっていて、荷物が底に集中しないよう工夫されています。頭帯と組み合わせて使うこともできます。狩猟で獲ったイノシシなどの獲物を入れて運ぶためにも使われていました。薯榔(しょうろう)で染めると、深みのある赤褐色になります。

《 sivazun|大型女性用編み袋 》
こちらは、ブヌン族の女性が農作業などで使っていた大型の肩掛け網袋です。サツマイモやトウモロコシなどの収穫物を運ぶほか、幼い子どもを入れて、頭帯と組み合わせて背負うこともありました。

《 sivazun|女性用編み袋(薯榔染) 》
女性が身につける小型のsivazunです。現代の暮らしに合わせて小型化。スマートフォンや財布などを入れられる、現代の肩掛けバッグとして再構成されています。

《 薯榔(しょうろう)|Dyeing Yam 》
ブヌン族の伝統的な染色にも使われてきた植物です。根を割ると赤い色素が現れ、煮出した液で繊維を染めることで、深みのある赤褐色に仕上がります。
ブヌン族のからむし織|Bunun Ramie Weaving
ブヌン族の織物には、家族ごとに受け継がれてきた色や文様があります。衣服に施された文様は、単なる装飾ではなく、家族や文化とのつながりを映し出すものでもあります。ここに展示されている作品の作者は、台東県・延平郷のPasikaw部落出身、邱春女(Abus)先生です。

《 habang ┃ ブヌン族男性の伝統的なベスト 》
ブヌン族の男性が日常的に身につけてきた伝統的なベストです。家族ごとに受け継がれてきた色や文様が施されていて、衣服を通して、どの家族に属するのかを示す役割もあります。
薯榔、檳榔、ウコン、馬藍など、さまざまな植物から染料をつくり、植物によって異なる色を生み出しています。

《 星のまなざし 》
こちらは、さまざまな植物の繊維を使って織り上げた作品です。草木染めによる豊かな色彩と、ブヌン族にとって「星」を意味する「八角花」の文様が施されています。
色彩には、薯榔、檳榔、ウコン、藍など、さまざまな植物からつくった染料を使用。植物によって異なる色合いが生まれています。

《 糸をたどる・takisvilianang 》
こちらは、作者が織物を学び始めた頃に制作した作品です。作者の一族、takisvilianang家に伝わる色彩を手がかりに、家族の記憶や物語を探していた時期の思いが込められています。織りを学ぶことを通して、自分の家族や文化のルーツを見つめ直した作品です。

《 Kuling(未完)|ブヌン族男性の胸帯 》
ブヌン族の男性が身につける胸帯「Kuling」です。制作された当時は、まだ苧麻(からむし)の復興が進んでいなかったため、綿糸を使って織られています。腰帯で身体に固定し、足で操作する地織機を使って、経糸を整え、シャトルを通しながら文様を織り出していきます。
作者は制作途中で亡くなったため、こちらは未完成の作品です。
あえて未完成のまま展示することで、完成品だけではなく、伝統的な織りの営みそのものを伝えています。

《 苧麻(からむし)》
苧麻は、イラクサ科の多年草で、繰り返し収穫できる植物です。茎から繊維を取り出し、乾燥や紡糸などの工程を経て、一本の糸へと生まれ変わります。軽くしなやかで、通気性や吸湿性に優れ、独特のハリがあるのも特徴です。台湾では、ブヌン族をはじめとする原住民族の織物を支えてきた、重要な素材のひとつです。
月桃細工|Shell Ginger Craft
月桃はショウガ科の植物で、貝殻に似た形の花を咲かせることから、英語では「Shell Ginger」と呼ばれています。
アミ族の暮らしにも身近な植物で、昔から籠や敷物、容器など、さまざまな生活道具に使われてきました。
今回展示しているのは、月桃を編んでつくられた手提げ籠と弁当箱です。身近な植物を素材として生かし、暮らしに必要な道具へと変えていく、月桃編みの知恵と技術を見ることができます。

《 月桃編みの手提げ籠 》
月桃の葉を編んでつくられた手提げ籠です。アミ族の暮らしに身近な月桃は、昔から籠や敷物など、さまざまな生活道具に使われてきました。作者のIliさんは、伝統的な編みの技法を受け継ぎながら、現代の暮らしに合わせたものづくりを展開しています。

《 月桃編みの弁当箱 》
月桃の葉を編んでつくられた弁当箱です。作者は伝統的な編みの形や技法を大切にしながら、自ら月桃を育て、素材に適した葉を選んで、ひとつひとつ丁寧につくっています。

《 月桃との出会い 》
作者が月桃編みを学ぶきっかけのひとつになったのが、両親が営んでいた水煎包の店でした。できたての水煎包を月桃の葉に載せて販売したところ、毎日のように売り切れたそうです。身近な月桃が食べ物を包み、暮らしを支えていることに魅力を感じ、そこから伝統的な月桃細工を学び始めました。
深進行

最後のエリアが、こちらの「深進行」です。
こちらは、どちらかといえば現代アートや現代クラフトに近い作品を展示しているエリアです。
「臺東國際青年工藝設計營」「生活品牌文創跨域共創」「臺東工藝設計獎」「工藝駐村交流」など、近年台東で生まれた工芸・デザインの成果を紹介しています。
若いアーティストたちが、地域の文化や暮らしを出発点に、素材研究や国際交流を通して、現代の工芸にどんな新しい可能性があるのかを探ってきました。
その背景にあるのが、近年世界的にも注目されている「エコロジカル・クラフト」という考え方です。
「深進行」とは、まさに今、形づくられている台東の工芸。その現在地を感じていただけるエリアです。
生活品牌文創跨域共創|生活ブランド・クリエイティブ分野横断型共創
「生活ブランド・クリエイティブ分野横断型共創」プロジェクトによって生まれた3作品を紹介します。

《 藤編桌燈 Cloud|籐編みのテーブルランプ 雲 》
こちらは、「雲」をイメージした藤編みのテーブルランプです。
台湾プユマ族の籐細工工房<藤你的樣子>と藍染工房、そしてタイのデザイナーによるコラボ作品です。
タイのデザイナーが台東に滞在するなかで、特に印象に残ったのが、台東の青空と白い雲、いわゆる「Taitung Blue」でした。
そこから着想を得て、藤編みの構造と藍染の布製シェードを組み合わせ、台東の空の風景を表現しています。

《 一粒米盤 |一粒の米の器 》
お米の産地でもある台東の「米食文化」から着想を得て、白米の形や自然な色合いを器に落とし込んでいます。シェアプレートやお菓子を載せる器として、日々の食卓で使いやすい形に仕上げられています。
特徴的なのが、この柔らかな「米色」の釉薬です。
試行錯誤を重ねながら生み出された色で、台東の豊かな米文化と、土地に根づくもてなしの心を表現しています。
身近な「一粒の米」から、台東の土地や暮らしを感じられる器です。

《 藤編提燈 Wave|籐編みのランタン 波 》
こちらは、「波」をイメージした籐編みのランタンです。
こちらも<藤你的樣子>と、タイのデザイナーによる共同制作作品です。
台東の海の波から着想を得て、藤編みの線と光を重ねることで、波が流れるような造形と、光の揺らぎを表現しています。
素朴な藤の質感に、現代的で繊細なデザインを加えることで、伝統的な藤編みに新しい表情を与えています。
こちらも、異なる土地や分野のつくり手が出会うことで生まれた、現代の工芸のひとつです。
工藝駐村交流|台東工芸・国際交流アーティスト・イン・レジデンス
台東の工芸と世界をつなぐ〈深進行〉から、台東工芸・国際交流アーティスト・イン・レジデンスプログラムを通して生まれた、5つの作品をご紹介します。
異なる土地を訪れ、そこで出会った文化や素材、風景を自らの表現へと取り込むアーティストたち。
タイ、マレーシア、ボルネオなど、南島の各地へと広がる交流のなかで、異なる文化や技術が交わり、新たな工芸の表現が生まれています。

《 暹羅的層次|暹羅のレイヤー 》
《 Putay|マラン頭飾り 》と同じ作者。タイにわたり、バンコクとチェンマイを滞在し、制作された頭飾りです。バンコクの華やかさや都市の秩序、そしてチェンマイの芸術性や静けさが表現されています。
髪に通した銅線は、寺院の屋根や都市の夜景に映る光をイメージしたもの。銅線の輝きを通して、タイの文化や日常、そして芸術が交わる風景を表現しています。

《 泰國 · 雙重之光|タイ・二つの光 》
現代的な華やかさと、古くから続く信仰が共存するバンコクから着想を得ています。使われている真鍮は、信仰が持つ永続性や、積み重なってきた時間の重みを表しています。一方、フェイクパールは、都市に生まれる一瞬の輝きや、人々の欲望を象徴しています。
異なる二つの「光」を重ねることで、バンコクにある対比と共存の姿を表現した作品です。

《 連流之器|慕情のかたち 》
台湾アミ族の樹皮布アーティストがボルネオにアーティスト・イン・レジデンスして制作した作品です。
模様はボルネオ文化博物館やクチン州議会の建築、そして配色はボルネオを象徴するサイチョウ(鳥類)の鮮やかな色彩から着想を得ています。
台湾とボルネオ、それぞれの樹皮布を組み合わせることで、異なる文化の融合と、そこにある共通性を表現しています。
裾には、現地で親しまれているシダ植物「Midin」を思わせる造形が取り入れられています。
その姿は、アミ族の文化で親しまれている「Pahku」にも似ています。異なる土地で出会った植物や文化のなかに、自分の故郷とのつながりを見つける。そんな「親しみ」や「故郷への思い」が込められた作品です。

《 連流之器|島と島を結ぶ器 》
「島は一艘の舟、舟は一つの島」というハワイのことわざから着想を得ています。
マレーシア・パハンの伝統的な壺「Terenang」と、台湾パイワン族の「djilung」、そして連杯「langalj」の思想を組み合わせています。
二つの器がつながったような形になっているのが特徴です。
異なる島や文化で育まれてきた器の思想を重ねながら、オーストロネシア文化に通じる、共生や支え合いの精神を表現しています。

《 三石迴聲 》
台湾パイワン族の「三石炉」に着想を得た、儀礼的な器です。
三つの石で支える炉の構造を、一体三連の壺へと置き換え、「人・作物・自然」の共生関係を表現しています。
制作には、マレーシア・パハンでの滞在中に採取した現地の土を使用し、仕上げには台湾パイワン族の伝統的な地窯燻焼の技法を取り入れています。
異なる土地の土と技術を組み合わせることで、土地や自然、そして祖霊への感謝を表現した作品です。
臺東國際青年工藝設計營、臺東工藝設計獎|受賞作品紹介
台東で開催されてきた工芸デザイン賞や、青年向けの工芸デザインキャンプから生まれた、近年の受賞作品をご紹介します。

《 光起族舞|光が灯す部落の舞 》
こちらは、プユマ族の伝統的な祭りから着想を得た作品です。
祭りのとき、部落の人々は中央に焚かれた火を囲み、一緒に歌ったり、踊ったりします。その光景を、アーティストは照明のデザインへと落とし込み、さらに革の工芸を組み合わせました。
灯りがまるで火のように温かく揺らめきながら、集落の人々がひとつに集まり、そこから生まれる力や感情を表現しています。
こちらは、2025年の「Taitung Crafts Design Camp」でGold Awardを受賞しています。

《 拾起一片山林-生根卷柏、拾起一片山林-地心VIII 》
作者は3,000メートル級の山を台湾ブヌン族の人たちと登りました。その際、長老が語った「人は山や森を征服するのではなく、共に生きる」という言葉から着想を得た作品です。
山の中で出会った苔や地衣類の姿や生命力からインスピレーションを受け、苔の質感を思わせるアクセサリーへと展開しています。
山を征服するのではなく、山を敬い、その土地とともに生きる。そんなブヌン族の自然観や倫理を表現した作品です。
2021年の「Taitung Craft Design Award」でGrand Prizeを受賞しています。

《 背著雲朵去旅行|光が灯す部落の舞 》
主な素材として使われているのが、非常に軽い蓪草(カミヤツデ)の髄の部分です。その軽さから「天然の発泡スチロール」とも呼ばれる素材で、まるで雲のように、ふわりと浮かぶような形に仕上げています。
一方で、全体をつないでいるのは、丈夫な籐の輪。山や森から得られる素材が持つ「軽やかさ」と「強さ」を、一つの作品の中に組み合わせています。
2021年の「Taitung Crafts Design Camp」でGold Awardを受賞しています。

《 樹皮布牆|樹皮布の壁 》
台東・長濱を拠点に活動するアミ族のアーティストが、地元で採取したカジノキを使い、100枚以上の樹皮布を一枚一枚、手作業でつくりました。
樹皮を繰り返し叩いて繊維をほぐしていく工程だけでも、なんと約2か月かかります。
そうしてつくられた樹皮布を、光の器へと変えたのがこの作品です。
自然素材であるカジノキの繊維が、光を通すことでまた違った表情を見せ、樹皮布の質感が展示空間全体へと広がっていきます。
以上で台東工藝展のガイドツアーを終わります。
皆さま、本日は台東工藝展のガイドツアーにご参加いただき誠にありがとうございました。
本展示会を、いつか日本でも開催できたらと考えています。
もし、日本での開催や展示にご興味のあるギャラリー・文化施設・関係者の方がいらっしゃいましたら、ぜひお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
▼ガイドツアーの前編はこちら👇
https://ngiha-mag.com/wp_post_UiwNfcrK-1/2026taitungcraftexhibition-jp-01
