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台東工藝展 ─ 深深慢(Deep Slowness)|展示ガイドツアー(前編)

2026.9.19

2026年7月3日から8月20日まで、台湾南東部・台東県で2026台東博覧会(TAITUNG EXPO)が開催されました。

その博覧会の一端を担ったのが、台東工芸展 ─ 深深慢(Deep Slowness)

ご縁をいただき、ありがたいことに、ニハマガジンは本展のガイドスタッフを担当させていただきました。

ガイドでは、作品そのものについて説明するだけではなく、展示がどのような意図で構成されているのか、作品が台東の土地や文化とどのようにつながっているのか。そうした背景にも触れながら、会場に展示された72点の作品を来場者の方々と一緒に見て周り、対話を交えながらご案内しました。

1回あたりのガイド時間は、平均すると約1時間。

会期を終えた今、振り返ってみると、そこでお話ししていたこと自体も、ひとつの記録として残しておきたいと思うようになりました。

そこで今回は、実際のガイドで話していた内容をなるべくそのままに、前半・後半の2回に分けてアーカイブしてみたいと思います。

台東まで足を運ぶことができなかった方には、少しでもこの展覧会を追体験してもらうために。そして、実際に会場を訪れた方には、展示を思い出しながら読んでもらえるような記録として。

まず前半では、5つのテーマのうち「深地圖」「深文化」「深関係」を取り上げます。

※各作品紹介は、ニハマガジンのInstagramですでに投稿されているコンテンツを一部引用にしています。

台東工芸展 ─ 深深慢(Deep Slowness)とは?

「台東工藝展」は、2026年夏に開催された2026台東博覧会(TAITUNG EXPO)の一環として開催された工芸展です。

博覧会全体のテーマは「SLOW FOR LIFE」。

台東県は数年前から「慢(Slow)」をキーワードにプロモーションを行っており、それにまつわるイベントなども定期的に開催しています。「慢活(Slow Living)」「慢経済(Slow Economy)」「慢食節(Slow Food Festival)」「慢活祭(Slow Living Festival)」などが挙げられます。

「深深慢」ももちろん台東県が推している「慢(Slow)」呼応していますが、単に「ゆっくり」という時間の流れを表す言葉で使ってるわけではありません。

台東という土地で、人と自然が長い時間をかけて関わり合い、その中で育まれてきた工芸。その背景にある文化や記憶、自然との関係まで含めて見つめ直すこと。それが、この展覧会における「深深慢」のひとつの意味だったように思います。

本日は72点のさまざまな作品を紹介いたしますが、私たちはこの機会に皆さまが改めて工芸文化がどう誕生したのか知ってもらえたらと思っています。

展示は「深文化」「深生態」「深地図」「深関係」「深進行」という5つのテーマで構成されています。

それでは「深地図」から見ていきましょう。

深地図

「深地図」では、台東と海とのつながりに着目し、海洋にまつわる工芸を紹介しています。

台湾原住民族の多くは、広大な海域に広がるオーストロネシア語族に属しています。その分布は、西はマダガスカルから東はイースター島、南はニュージーランドまで。台湾は、その広大な文化圏の北西端に位置しています。

つまり台湾では、はるか昔から海を介した人々の移動や交流が行われてきました。海は「境界」ではなく、人やモノ、技術、文化をつなぐ「道」だったのです。

それでは、ここから「深地圖」に並ぶ作品をひとつひとつ見ていきましょう。

アミ陶|Amis Pottery

現在、皆さんの目の前に並べられた4つの焼き物は、台湾アミ族に伝わる伝統的な陶器「アミ陶」です。

作者は台東の加路蘭(Karoroan)出身のHani Caki(ハニ・ザキ)先生の作品です。元々、彼は台南で茶器などを作陶しており、あることをきっかけに故郷に戻り、そこから20年以上アミ陶の研究と制作を続けています。

《 tilong|水壺 》
tilong(ティロン)と呼ばれ、主に水を運び、貯めるための壺として使われていました。伝統的に、アミ陶は女性だけが作ってきたものです。かつて女性たちは、汲んだ水をtilongに入れ、頭に載せて運んでいたといいます。

Hani先生曰く、「美しいアミ陶とは、妊婦のお腹のような丸みを帯びた形」とされ、アミ陶の特徴的なフォルムには、こうした身体感覚や暮らしの知恵が込められています。

《 lalidingan|蒸し器 》
古くはサツマイモやタロイモなどの食材を蒸すために使われていた蒸し器です。伝統的な造形を再現し、屋外で焼き上げる「野焼き」で制作されている。「耳」と呼ばれる取手部分が特徴的。

《 katapal|陶皿 》
台湾・台東県加路蘭(Karoroan)地域にのみ見られる、世界でも珍しい形の陶皿です。Hani先生は国立台湾史前文化博物館で実物を見たことをきっかけに、出身地の加路蘭集落の土を使って復元しました。

《 diwas|祭杯 》
diwas(ディワス)は、台湾アミ族の文化を象徴する祭杯です。アミ族の男性は、生涯ひとつのdiwasを持ち、人生最後の日まで身につけます。

では、なぜここには3つのdiwasがあるのでしょうか?

祖霊信仰を大切にするアミ族では、重要な儀式や祭典の際に、「天」「土地」「祖霊」それぞれに捧げるため、3つのdiwasを並べて使うからです。

海洋工芸|Ocean Crafts

ここでは、漁や航海にまつわる工芸を紹介しています。

《 銛 》
アミ族の突き漁に用いられてきた漁具。展示されているのは、その原初的な姿です。日本統治時代にゴムが持ち込まれて以降は、ゴムを用いた銛が主流となりました。

《 水中めがね 》
こちらも日本統治時代に持ち込まれたものです。モデルとなったのは、沖縄のミーカガン。樟の木を顔の形に合わせて削り出し、レンズには台風で割れた学校の窓ガラスや、廃ガラス瓶を再利用しています。

《 パドル 》
台湾アミ族のアーティストであり、船大工でもあった故Lafin Sawmahさんが制作したパドルです。南島の航海文化の再生を目指した活動を象徴する作品であり、海を渡ってきた人々の航海の記憶を今に伝えています。

《 パドルケース 》
台東工藝展のキュレーター、陳豪毅(Akac Orat)さんの作品です。故LafinさんとAkacさんは、船乗り仲間でした。ある日、Lafinさんは海に出たまま、帰らぬ人に。ふたりはハワイの船乗りレースへの出場も約束していました。Akacさんは、Lafinさんの想いと一緒にパドルをハワイへ持っていくことを決めます。得意の籐細工でパドルケースをつくり、その中にパドルを収めて、約束していたレースへの出場を実現しました。

ふたりの友情と、海で過ごした時間が詰まった作品です。

《 陳豪毅|Akac Orat 》
台東県南王部落出身の籐細工職人。後に母方の阿美族部落に移住し、藤木植人(O.K.A.F Crafts)を立ち上げる。自然素材や原住民族文化の再生を軸に、工芸・建築・教育に取り組む。2026台東工芸展のキュレーターを担当。

石器|Stone Tool

皆さんも一度は見たことがある石器。私たちは石器を、「工芸の原点」として捉え直しなおしました。

作者はプユマ族の工芸師です。卑南遺跡公園で史前文化の研究や解説に携わりながら、石器や伝統建築など、先人たちの技術を復元し、受け継いでいます。

石を磨き、削り、形を与える。自然の素材が、道具や工芸へと変わっていく、その過程を感じてみてください。

《 石斧 》

木の伐採や加工に用いられた道具です。作者自ら川原で石を採集し、何度も打ち欠き、磨き上げることで復元した作品です。

《 石ぐわ 》

土を掘り起こすために用いられた石製の農具。

石杵、石刀、樹皮打棒、樹皮錘

木の実をつく石杵、食材や植物の加工をするための石刀、樹皮を叩いて繊維を広げるための樹皮たたき棒と樹皮ハンマーとして使われていました。

石器といっても、ひとくくりにはできません。

用途に応じて石の形や厚みを調整し、巧みな技術によってさまざまな道具が生み出されました。まさに、私たちの暮らしに欠かせない道具の「祖先」ともいえる存在です。

トンボ玉|Glass Bead

台湾にはもともと、ガラスという素材はありませんでした。では、どこからやってきたのでしょうか?

冒頭でも触れたように、台湾原住民族は昔から海外と交易をしてきました。そうした交易を通じてガラスが台湾に持ち込まれ、原住民族の手によって、現在のトンボ玉工芸へと発展していきました。

作者は、台東県・太麻里を拠点に活動する角琉璃(@jiaoglassbeads)です。

《 剛毅百合 》
30年以上にわたってトンボ玉を作り続けてきた作者の歩みを象徴する作品です。伝統的な配色は黒と白。トンボ玉は美しい装飾品であるだけでなく、家族や身分、祖先から受け継いだ文化を象徴するものでもあります。よく見ると、一粒一粒の文様がすべて違うことに気づきます。これらは作り手がひとつずつ描いたもので、それぞれに異なる意味や名前があります。

文字を持たなかったパイワン族にとって、トンボ玉に刻まれた文様は、ある意味で言葉の代わりだったのかもしれません。

《 起点 》
カラフルなこちらの作品は、伝統と現代のデザインを融合させ、今の私たちにも身につけやすい形に仕上げています。伝統に固執してトンボ玉工芸を過去のものにするのではなく、モダンなデザインを取り入れながら、文化を次の世代へつないでいく。そんな新たな「起点」を表現した作品です。

Putay|マラン頭飾り

煌びやかな作品が続きます。
こちらは、台湾アミ族最大の集落のひとつ、馬蘭(Farangaw・マラン)部落に伝わる伝統的な頭飾り「Putay(プタイ)」です。Putayは、祭りや人生の節目など、ハレの日に青年男女が身につけた、華やかな装いのひとつ。しかし、時代の流れとともに、その姿や制作技術は次第に失われていきました。

この作品は、1920〜30年代の日本統治時代に撮影された写真や、集落での聞き取り調査をもとに復元された作品です。

《 Putay(男性用) 》
祭りや重要な儀礼の際、青年たちが身につけた晴れ着のひとつとされています。当時の白黒写真からは、実際にどのような素材が使われていたのかはっきりとはわかりません。今回の作品では、主にビーズを使って再現しています。

男性用の頭飾りは、上に高く伸びた形が特徴です。

《 Putay(女性用) 》
女性用の頭飾りは、男性用に比べて高さが低いのが特徴です。

チヌリクラン|タオ族の伝統的木造漁船

台湾の皆さんはお馴染みの蘭嶼島に暮らすタオ族の伝統的木造漁船「チヌリクラン(Cinedkeran)」です。タオ族にとってチヌリクランは、漁や航海はもちろん、飛魚(トビウオ)祭や進水式など共同体の重要な儀礼にも欠かせない精神の拠り所であり、海とともに生きる文化や精神そのものを象徴しています。

Ovayan チヌリクラン20人乗り 1/12模型 》
2026年6月、タオ族が約300年ぶりに蘭嶼島からフィリピンのバタン諸島へ航海するプロジェクト「Ovayan(タオ語で“黄金”の意)黃金友誼號」が実施されました。こちらは、その実物の1/12サイズの模型です。

《 チヌリクラン|Cinedkeran 》
タオ族に受け継がれる伝統的な木造漁船。タオ族では乗船人数によって名称が異なります。2人乗りのような小型の舟は「タタラ(Tatala)」と呼ばれ、本作のような大型船は「チヌリクラン(Cinedkeran)」と呼ばれています。集落ごとに船の装飾デザインも異なります。

《 Mata no Tatala ┃船の目 》
タオ族の伝統的な木造漁船に刻まれる代表的な文様です。「Mata no Tatala」はタオ語で「船の目」という意味。魚群へ導き、安全な航海と無事の帰港を願うとともに、災厄を払う護りの象徴とされています。太陽の光や生命力も表し、タオ族の海洋文化と精神を今に伝える文様です。

《 Taotao 》
「Taotao」は、人の姿を表した文様です。造船や漁法を伝えた祖先や勇士を称えるものとされ、家族や家系の象徴でもあります。

破|Contemporary Ceramics

《 破 》
一見すると、藤壺や虫歯のようにも見える、不思議な形をしたこの作品は、決して失敗作ではありません。作者は成形したあと、あえて手で押し潰し、そこに自然に生まれた裂け目をそのまま作品にしています。

「誰もが心に傷や、ネガティブな過去や思い出を抱えている。でも、それらは否定されるものではない。今の自分をつくっているものだから」

「美しさは完全さではなく、壊れたあとに残る痕跡に宿る」

そんな考えのもと、会場には一つとして同じ形のない100点の作品が並びます。海流のように、時間が流れるように、作品が空間をつくり出しています。

文化もまた、決して止まることなく、時代とともに変化し、新たな姿へと生まれ変わっていく。そんなことを表現した作品です。

深文化

皆さん、こちらを見てください。
深文化エリアの外観、どこか家のように見えませんか?
そうです。ここは、台湾原住民族の伝統家屋をモチーフにした空間です。

私たちは、

家屋は、工芸が息づき、記憶が受け継がれていく場所。

だと考えています。

深文化では、かつての暮らしのなかで家で作られていたものや、日々使われてきた道具を紹介しています。

籐細工|Rattan Weaving

「深文化」、最初にご紹介するのは籐細工です。
台湾に住んでいると、藤椅(籐で作られた椅子)をよく見かけると思います。そんな「籐」を使った編み物を、台湾原住民族は昔から手仕事として作ってきました。展示している2つの作品は、どちらも博物館に収蔵されている資料や、部落で代々受け継がれてきた古い籠をもとに復刻されたものです。

padekan|背負い籠 》
博物館に所蔵されているプユマ族の額帯背負い籠をもとに復刻した作品です。農作業や山での採集に使われていた生活道具で、籠と額帯には山で採った黄籐、背負い紐には自ら育てたウコンで染めた木綿糸を使い、ひとつひとつ手編みで仕上げています。

 tataroan|置物籠 》
かつて家の中で、刺繍や織物に使う布や織片を収めるために使われていた籠です。

黃籐 ┃ Yellow Rattan 》
台湾に自生するヤシ科のつる植物。しなやかさと強度を兼ね備え、古くから籠や背負い籠、漁具、家具などに使われてきました。特に台湾原住民族の暮らしを支えてきた重要な天然素材でもあります。

樹皮布工藝|Barkcloth Craft

布のように見えるこちらの作品、実は「カジノキ」という木の樹皮から作られています。

作者は、かつて台東・都蘭('Etolan/ドゥーラン)部落の頭目を務めた、94歳の沈太木(Panay)さんです。

樹皮布の工芸は、台湾からフィリピン、インドネシア、パプアニューギニア、そして太平洋の島々へと広がる、オーストロネシア語族に古くから受け継がれてきた文化のひとつです。

しかし台湾では、一度その技術が途絶えてしまいました。

沈太木さんは、文献や資料がほとんど残っていないなか、集落の長老たちから聞いた話や記憶を手がかりに、何十年もかけて独学で技術を復元。失われた樹皮布工芸を現代によみがえらせたパイオニアです。

lorang a kiping|樹皮布の上着 》
カジノキの樹皮を水に浸し、叩き、繊維を広げて作られる樹皮布の上着。カジノキはアミ族の言葉で「lorang(ルラン)」といいます。

lorang a kafel|樹皮布のパンツ 》
こちらは、樹皮布でつくられたパンツです。台湾アミ族の伝統衣装をもとに、前掛けのように帯を腰に巻くスタイルに仕立てられています。

cepo a kafong|樹皮布の帽子 》
樹皮布の原料には、主にカジノキ(lorang)とガジュマル(cepo)があります。ちらの濃い茶色がかった生地は、ガジュマル(cepo・ツェプッ)の樹皮からつくられています。

 lorang a takolecas|樹皮布のサコッシュ 》
民国84年(1995年)に制作された樹皮布のサコッシュです。作者が制作を始めた初期に、試行錯誤しながら作った試作品。今の作品ほど洗練されてはいませんが、今後、樹皮布工芸復興の歩みを伝える貴重な作品となるでしょう。

orang a rafir|動物文様 》
こちらは、樹皮布に動物の皮を思わせる文様を施した作品です。樹皮そのものの質感や、天然素材ならではの風合いを生かしてつくられています。

 沈太木|Panay 》
台東・都蘭部落を拠点に活動するアミ族の樹皮布工芸師。約半世紀にわたり、一度途絶えた台湾の樹皮布工芸を独学で復元、再興した。伝統技術を現代の暮らしへ生かす作品づくりと後継者の育成を通して、オーストロネシア語族の文化を次世代へ伝えている。

プユマ族の儀礼刀|Pinuyumayan Ceremonial Knife

 tazaw|儀礼刀 》
こちらは、プユマ族に伝わる伝統的な儀礼刀です。
祭典など、神聖な儀式のときに使われるもので、成人した男性の身分や誇り、家族や部落とのつながりを象徴する大切なものでもあります。

鞘には、プユマ族を象徴する伝統文様が木彫りで施されています。赤を基調に黒の精緻な文様が重ねられているのも特徴です。

赤は生命力や勇気、黒は落ち着きや精神性を表しています。

獣皮の頭飾り|Leather Headdress

tjarupung|獣皮頭飾り 》
こちらは、作者の父が狩猟で得た素材からつくった、パイワン族の伝統的な獣皮を使った頭飾りです。イノシシの牙や尾、皮などを使い、中央には交易で手に入れた貝があしらわれています。

tjarupung|獣皮頭飾り 》
作者が2年をかけて制作した祭典用の頭飾りです。自ら狩猟した動物の骨や革、角を使い、長老から受け継いだ教えに従って、生命への敬意を込めながらつくられています。動物の命を工芸の中に生かすことで、人と土地との深いつながりを表現した作品です。

paqumac ┃獣牙飾り 》
「paqumac」は、パイワン族の言葉で「円形の獣牙飾り」を意味します。tjarupungに取り付けられる重要な装飾で、イノシシの牙からつくられています。

では、3つの頭飾りを見比べて、どれが一番「すごそう」だと思いますか?

答えはこちらの頭飾りです。

パイワン族では、頭飾りは身につける人の狩猟技術の高さや社会的な地位を象徴するもの。だからこそ、勝手に人に貸すことは御法度です。

土器|Earthenware

こちらは現代風にアレンジし古代の土器を復元した作品です。

土器 ┃ Earthenware 》
作者は、出土した古代の土器や古い写真に残る器の形に惹かれ、当時の人々の暮らしに思いを巡らせながら、その独特な曲線や絶妙なバランスを自身の作品に取り入れています。

古代の器や副葬品、動物を思わせる造形をもとに現代の器へと再構成し、籐編みを組み合わせるなど、新たな解釈も加えました。

表面は燻し焼きによる深みのある黒が特徴。古くからの器づくりの知恵を受け継ぎながら、現代の陶芸として新たな表現へと展開しています。

深関係

台湾には、文化部(日本の省に相当)が認定する「重要伝統工芸及び重要伝統芸能保存者」、いわゆる“人間国宝”がいます。工芸分野では現在、およそ30名が認定されています。
このエリアでは、台東を代表する3名の人間国宝の作品と普段から使っている手道具を紹介しています。

木彫り|Wood Carving

1人目に紹介するのは、台東・建和(Kasavakan)部落出身でプユマ族木彫師の陳文生(Haku)先生の作品です。第69代頭目を務め、部落の人々や日々の暮らし、文化や伝説を題材に、記憶に残る人々の表情や姿を木彫りで保存し、後世に伝えています。2026年、「人間国宝」に認定されました。

我的族人 – Kalukuy 》
こちらは、知本に暮らす作者の友人の父をモデルにした作品です。知本に住みながらも、部落には多くの友人がいて、行事があるたびに足を運んでいたそうです。作者の記憶に残るその姿をもとに、木に刻んでいます。

我的族人 – Iwa 》
部落のさまざまな行事にいつも積極的に関わっていた女性。祭典で、女性の長老が轎に乗せられ、高く掲げられながら満面の笑みを浮かべる姿は作者に深い印象を与えました。その人柄や表情に心を動かされ、木彫にしています。

我的族人 – Rahan 》
こちらは、祭典の前に祭師が祭告を行う、厳かな瞬間を彫った作品です。祭りの無事を祈る祭師の真剣な表情を表現しています。

子どもの傷跡 》
初見では、少しショックを受ける作品かもしれません。

ご覧のとおり、こちらは家庭内暴力がまさに起きている情景を表しています。子どもにとって親は一番身近な存在であり、"教材"でもあります。

母親に暴力を振るう父親を見て育った子どもが、成長したらどうなるでしょうか。心に傷を抱えたり、もし自分が親になったとき、同じことを繰り返してしまうかもしれません。

家庭内で争う両親と、その間に立つ子どもの姿を通して、家庭内暴力が子どもに残す傷を描いています。

作者は、部落の人々や伝統だけでなく、今を生きる人々が抱える問題にも目を向けています。現代社会に目を向けた作品です。

木彫り道具 》
作者が木彫に使っているノミと木槌です。電動工具が使われることも多い現代ですが、作者は今もこうした手工具を使い続けています。

ちなみに、先ほどご紹介した「我的族人」シリーズは、なんと1作品につき約1〜1.5時間で制作したそうですよ!

プユマ族の織文様|Pinuyumayan Weaving Patterns

2人目は、孫菊花(Sunay)先生の作品です。彼女はなんと60代から織物を学び始め人間国宝に認定されました。90歳近い現在も、制作と指導を続けています。

 プユマ族の織文様 ┃ Pinuyumayan Weaving Patterns 》
プユマ族に伝わるさまざまな織文様を、一枚の長い布に集めた作品です。

作者は、国立台湾史前文化博物館での調査や伝統衣装の研究、各部落でのフィールドワークを通して、プユマ族に残る織紋を記録してきました。この作品には、そうして記録してきたさまざまな織紋が織り込まれています。

一つひとつの紋様には、それぞれ異なる出自や物語があります。伝統衣装に由来するものや、フィールドワークを通して記録されたものなど、各部落に残る文化の記憶を一枚の布に集めています。

これは衣服というより、プユマ族の織紋を記録する「データベース」のような作品です。伝統的な技法や紋様を残し、次の世代が学ぶための手がかりとしても大きな意味を持っています。

そして、この作品は今回の台東工藝展が初公開となります。

かぎ棒|Weaving Hook 》
織るときに糸を引っ掛けたり、通したりするための道具です。師匠から教わった竹製のものから、食事用ナイフなど身近な道具を加工したものまで、さまざまな素材のかぎ棒を使い分けています。使いやすさや効率を求めて、自分なりに道具を改良してきました。

牛角かぎ針 ┃ Cow Horn Hook 》
牛の角からつくられたかぎ針です。表面には螺鈿が施されています。

整経架 ┃ Warping Frame 》
織る前に、経糸を順序よく整えるための道具です。伝統的な地織機では、4本の棒を使って経糸を整え、一本ずつ必要な位置に取り分けていきます。
作者は、より効率よく織るために、こうした道具そのものにも工夫を重ねています。

パイワン族のクロスステッチ|Paiwan Cross Stitch

台東が誇る3名の人間国宝。
さいごは、パイワン族の陳利友妹 (Lavaus Aluguyan)先生の作品です。パイワン族は、台湾原住民族のなかでも特にアーティスティックな文化を持つ民族です。

伝統的に文字による記録を持たず、口承や儀礼、そして文様や工芸を通して文化を伝えてきました。陳利友妹さんの作品には、神話や伝説など、パイワン族の世界観が一針一針の刺繍として表現されています。

幼い頃から母親の刺繍を見て技術を身につけ、4人の子どもを育てながら長い年月をかけて技術を磨いてきました。そして現在は、その技術と文化を次の世代へ伝える「人間国宝」に認定されました。

太陽と卵の神話 ┃ The Sun and Egg Creation Myth 》
パイワン族の伝承では、太陽から生まれた二つの卵は陶壺に置かれ、百歩蛇に守られながら、やがて一男一女へと孵化し、パイワン族の祖先になったとされています。

こちらは、太陽、卵、陶壺、人物、百歩蛇などの象徴を組み合わせ、パイワン族の祖先の物語を表現した作品です。

百歩蛇 ┃ Hundred-Pacer Viper 》
百歩蛇(ひゃっぽだ)は、パイワン族の伝説や神話にたびたび登場する神聖な生き物です。神聖な守護者として尊ばれ、勇気や身分、守護の力を象徴しています。

パイワン族の伝承では、百歩蛇が動くとき「salinsin」という音を立てるといわれています。その音を表現するために、作品には鈴が施されています。

(後編続く)

後編はこちら

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